Masahiro Hiraizumi, Januka S. Athukoralage, Nicholas T. Perry, Eisuke Tsujimoto, Nami Shiojiri, Naoto Nagahata, Lauren Lee, Gwanggyu Sun, Matthew G. Durrant, Sita S. Chandrasekaran, Silvana Konermann, Keitaro Yamashita, Patrick D. Hsu, Hiroshi Nishimasu. Structural mechanism governing the directionality of IS110 bridge recombination. Nature 2026 Aug 12. DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-026-10903-y
研究成果の概要
大腸菌などの細菌のゲノムには、IS110ファミリーに属する挿入配列因子(「動く遺伝子」)が存在します。我々は2024年、IS621リコンビナーゼがブリッジRNAと呼ばれる非コードRNAと協働し、環状DNA中間体であるドナーDNAをゲノム上のターゲットDNAに挿入する分子メカニズムを報告しました。一方、ゲノム上のIS621因子がどのように切り出され、環状DNA中間体を形成するのかは不明でした。特に、ブリッジRNAは主に環状DNA中間体から産生されるため、最初の切り出しに必要なブリッジRNAがどのように供給されるのかという「鶏が先か、卵が先か」という問題が残されていました。
本研究では、ゲノム上のIS621因子から少量のブリッジRNAが産生されており、IS621リコンビナーゼと複合体を形成することで、IS621因子の切り出しを促進することを明らかにしました。さらに、切り出しと挿入の反応効率を比較したところ、IS621リコンビナーゼ–ブリッジRNA複合体は、切り出しよりも挿入を効率よく触媒することが分かりました。また、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により、切り出し反応中のIS621リコンビナーゼ–ブリッジRNA–DNA複合体の立体構造を決定しました。2024年に報告した挿入反応中の複合体では、ドナーDNAとターゲットDNAがU字型に折れ曲がって複合体に結合していたのに対し、切り出し反応複合体では、2本の直鎖状DNAがX字型に配置されていました。さらに、ブリッジRNAと基質DNAの塩基対形成や、このような基質DNAの立体構造の違いによって、切り出し反応が挿入反応に比べて抑制されていることが明らかになりました。本成果は、IS110ファミリー転移因子の転移メカニズムの理解を深めるとともに、次世代ゲノム編集技術「ブリッジエディティング」において、挿入と切り出しの方向性を制御するための設計原理を提供します。
